研究活動

1. 工学系日本語教育に関する研究

1-1. コーパス研究

工学系日本語教育コースでは、留学生が専門分野において必要な日本語能力を向上させるため、2007年から2017年にかけて「理工学系話し言葉コーパス(The Science and Engineering Spoken Japanese)」を構築しました。電気系工学、都市環境工学、建築学など7分野で収集した約156時間のゼミ内発表や質疑応答の音声データを文字化し、形態素解析ソフト「茶まめ」を用いて分析を行い、延べ190万の形態素数と1万5千の異なり形態素数を抽出しました。このデータを基に、2013年には研究室で使用される語彙学習を支援する『理工学系語彙・用例学習支援システム レインボー』を開発し、2014年には専門語彙と漢字を学習するコースも開設しました。これにより、留学生は研究室でのコミュニケーションや研究活動に必要な日本語能力を効果的に習得できるようになっています。

  • 岡葉子・菅谷有子・遠藤直子・白鳥智美・森幸穂・伊藤夏実(2020) 「『理工学系話し言葉コーパス』における受身表現の出現傾向」(2020年度日本語/日本語教育研究会口頭発表)
  • Yumiko Furuichi・Ayşe Nur Tekmen(2019) 「レジリエンス工学のコーパス構築と語彙分析」トルコ第4回日本語・日本語教育・国際シンポジウムIV. Japon Dili ve Eğitimi Uluslararası Sempozyumu – JADEUS 2019

1-2. ニーズ調査

近年、日本語学習者のニーズはますます多様化・複雑化しており、それに伴い日本語教育を取り巻く環境も大きく変化しています。そこで、工学系研究科の留学生や専門教員のニーズや言語使用実態を把握し、学習者の多様性に対応し、カリキュラムの適応性を高め、教育効果を上げることを目指しました。
  • 古市由美子・牛山和子・猪狩美保・劉羅麟(2025予定) 「英語で研究する工学系留学生はなぜ日本語を必要とするか-留学生と教員のニーズ調査を踏まえて-」(専門日本語教育学会)

1-3. 評価法研究

工学系研究科日本語教育コースでは、プログラム上の課題を発見し、改善を図るとともに、大学内外に対して説得力のある説明を行う必要があるため、プログラムの評価研究を実施しました。また、受講者が自身の日本語能力を評価する「工学系日本語教室Can-do statements(CDS)」に関する研究も行いました。この研究では、CDSをプレイスメントテストとして活用する際、工学系CDSに熟達度テストを組み合わせることで客観性を高める必要があることが示唆されました。このアプローチにより、より正確な評価と適切な指導レベルの判定が可能になることが期待されます。
  • 古市由美子・伊藤夏実(2014) 「工学系研究科日本語教室CDSの実践報告-海外協定校との共通の評価基準の枠組みを目指して-」ヨーロッパ日本語教育シンポジウム(スロベニアリュブリャーナ大学)
  • 古市由美子、伊藤夏実(2014) 「工学系研究科日本語教室CDSの実践報告-海外協定校との共通の評価基準の枠組みを目指して-」『ヨーロッパ日本語教育』19 pp. 349-356

1-4. 教材研究と開発

工学系研究科日本語教育コースでは、大学総合教育研究センターとの協働により、工学部広報誌『Ttime!』の記事を基にした「中級1専門読解(SPOC: Small Private Online Course)」のオンライン教材としてイラスト動画を作成しました。さらに、工学系の専門教員へのインタビュー動画と文型・表現の動画、試験などを加え、MOOC(Massive Open Online Course)を開発しました。

留学生就職促進プログラムは、2020年に文部科学省からの委託を受け、優秀な留学生の日本社会への定着を促進する包括的キャリア形成支援教育プログラムです。この「留学生就職促進プログラム」において、「ビジネス日本語」「キャリア教育」のオンデマンド教材計21本を作成しました。

  • 猪狩美保(2024) 「専門読解」コースにおける反転授業の実践-異なるレベルの分析と比較の試み- 第63回 日本語教育方法研究会 2024 年9月7日(土)(オンライン)
  • 古市由美子・猪狩美保(2023) 「反転授業における教員の専門性-日本語授業実践のリフレクションに基づいて-」東アジア日本語教育 日本文化研究学会

2. 国際交流に関する研究

2-1. 学内における国際交流活動の研究

工学系研究科日本語教育コースでは、毎週キャンパス内の様々な背景を持つ人々がランチタイムに、国籍、言語、身分を超えて日本人学生と留学生が気軽に語り合えることを目的に、「International Lounge」を開催しています。2017年に、このILの参加者が、この場をどのように捉えているのかを調査しました。その結果、多言語が使用できることによって、誰もが言語資源を十二分に発揮し、他者との深いコミュニケーションを可能にしていることが示唆され、その意義が明らかになりました。
  • 尾辻恵美・熊谷百合・佐藤慎司(編)(2021) 『ともに生きるために-ウェルフェア・リングイスティクスと生態学の視点からみることばの教育』春風社 古市由美子「第7章 ウェルフェア・リングイスティクスを志向する「多言語おしゃべり会 International Café for you」の実践-言語生態学の視座から-」pp. 206-228
  • 古市由美子(2017) 「多言語おしゃべり交流会の意味づけ:言語生態学の視座から」全米日本語教育学会(カナダ-トロント)Panel Title:「「ウェルフェア・リングイスティクス」と日本語・日本文化教育:参加者の多様な資源を生かした言語文化教育」

2-1. 海外協定校との国際交流に関する研究

工学系研究科日本語教育コースでは、海外協定校の日本語授業に参加し、日本人学生と協定校の学生が言語運用能力を高めるだけでなく、文化体験とその場でのコミュニケーションを通して、相手の言語・文化、さらには自身の言語・文化への気づきを得ることを目指しています。本研究では、体験活動における日本人学生および協定校の学生が文化の相対性、多様性を認め、異文化に対して積極的、受容的な姿勢が養われたことが示唆されました。
  • Vatsala Misra・Yumiko Furuichi(2020) Enhancing Japanese learning among IIT Kanpur students using interactive workshops with U-Tokyo students Japanese Language Education Voices from South Asia The English and Foreign Languages University Press
  • Vatsala Misra・Yumiko Furuichi(2019) Enhancing Japanese learning among IIT Kanpur students using interactive workshops with U-Tokyo students, 南アジア日本語教育国際シンポジウムJapanese Language Education in South Asia ’19インド・ハイデラバード英語外国語大学
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